第1章:身の回りの危険を知る
CBRNE

普通の災害とは違い、見えない脅威や特殊な対応が求められるため、各国で特別な対策がとられています。CBRNEは、意図的に、多くの人に被害を与える目的で使用されることが多いため、自然災害とは異なる危険性を持っています。
CBRNE事案は、単なる事故や犯罪ではなく、社会に大きな混乱と恐怖をもたらすことを目的としたテロや、意図しない事故でも発生する可能性があります。そのため、警察、消防、自衛隊、医療機関などが連携し、特殊な装備や訓練を積んで、万が一の事態に備えています。
私たちができることとしては、不審な物を見かけたら近づかない、迅速に避難するなど、日頃から危機意識を持つことが大切です。
災害の特徴
1. C: Chemical(化学物質)
- 吸入: ガスを吸い込むと、呼吸器や神経系が麻痺してしまいます。
- 接触: 皮膚に触れると、ただれたり、火傷のような症状が出たりします。
- 特徴: 散布された場所やその周辺に被害が集中しやすい傾向があります。
- 毒ガスを吸い込まないように、口と鼻を濡れたタオルなどで覆い、その場からすぐに離れる。
- 衣類を脱ぎ(脱衣)、水で洗い流す(除染)。
(1) 初期対応(現場での対応)
初期対応の目的は、さらなる被害者の発生を防ぎ、被害を最小限に抑えることです。
- まず、危険な場所から直ちに離れ、風上へ避難します。化学物質は空気より重い場合が多く、低い場所に溜まる傾向があるため、できるだけ高台へ避難することも重要です。
- 密閉された空間(例:建物内、車内)にいる場合は、窓を閉め、換気扇を止め、外部からの空気流入を防ぎます。
- 消防(119番)へ通報し、化学物質の種類、被害の状況、場所を正確に伝えます。
- 化学物質の種類がわからない場合でも、「異臭がする」「煙が出ている」「複数の人が倒れている」といった状況を具体的に伝えます。
- 化学物質が付着した衣服を直ちに脱ぎ、ビニール袋などに入れて密閉します。
- 大量の流水と石鹸で、付着した化学物質を洗い流します。この際、目を洗うことを優先し、可能であればシャワーを浴びます。
- 目に見えない汚染があることを前提に行動し、二次汚染を防ぐため、他の人との接触を避けます。
(2) 医療対応(病院での対応)
医療機関は、化学物質の特性を理解した上で、適切な医療処置を迅速に行う必要があります。
- 現場からの情報(化学物質の種類、暴露量、暴露経路など)を正確に受け取り、医療スタッフ間で共有します。
- 可能であれば、化学物質の安全データシート(SDS)を参照し、毒性や推奨される治療法を確認します。
- 呼吸器症状、神経症状、意識障害など、重症度に応じて患者を分類し、治療の優先順位をつけます。
- 見た目には軽症でも、時間差で症状が悪化する可能性があるため、注意深く観察します。
対症療法:
呼吸器症状には酸素投与や人工呼吸器を使用します。
神経症状には、解毒剤(アトロピン、PAMなど)を投与します。
除染:
病院に到着した患者の除染を最優先で行います。医療従事者が二次汚染しないよう、防護服を着用して対応します。
精神的ケア:
化学物質による被害者は、強い不安や恐怖を抱いているため、精神的なケアも重要です。
(3) 公衆衛生・行政の役割
- 化学物質によっては、暴露後、数年を経てからがんや慢性疾患を発症するリスクがあるため、長期的な健康調査やフォローアップ体制を構築します。
- 汚染された土壌や水源の浄化も重要な課題です。
2. B: Biological(生物兵器)
- 感染症の拡大: 空中や水、食品を介して広がり、大規模な感染症(パンデミック)を引き起こす可能性があります。
- 潜伏期間: 感染してから症状が出るまでに時間がかかるため、いつどこで感染したか分かりにくいです。
- 感染拡大を防ぐため、迅速な隔離と医療対応が必要です。
- 手洗いやマスクの着用など、基本的な感染予防が重要です。
(1) 初期対応(発生現場での対応)
初期対応の目的は、被害の拡大を最小限に抑えることです。
(2) 公衆衛生対応(被害拡大防止)
(3) 医療対応(病院での対応)
- 診断:血液検査や遺伝子検査(PCR法など)により、病原体を特定します。
- 治療:特定された病原体に対し、適切な抗生物質や抗ウイルス薬を投与します。
(4) 長期的な課題
3. R: Radiological(放射性物質)
- 爆風と破片:まず火薬の爆発で物理的な被害が出ます。
- 放射線汚染:放射線汚染: 爆発によって放射性物質が広範囲に飛び散り、人や物を汚染します。
- 物理的被害: 爆発による爆風や破片で、死傷者が出ます。
- 放射線汚染: 爆発によって放射性物質が広範囲に飛び散り、人や物を汚染します。長期的な健康被害(がんや白血病)を引き起こします。
- 急いで(放射線に暴露される時間を短する)、爆発地点からできるだけ早く離れ(距離をとる)、放射性物質を体内(内部被曝)に取り込まないようにします。
- 除染として、汚染された衣類を脱ぎ(脱衣)、シャワーを浴びます。
4. N: Nuclear(核)
- 爆風:圧倒的な爆風で、広範囲の建物を破壊します。
- 熱線:強い熱線で、人や物を焼き尽くします。
- 放射線:爆発の瞬間と、その後の放射性降下物(死の灰)によって、深刻な被ばく被害を引き起こします。
- 爆風:圧倒的な爆風で、広範囲の建物を破壊します。
- 熱線:強い熱線で、人や物を焼き尽くします。
- 放射線:爆発の瞬間と、その後の放射性降下物(死の灰)によって、深刻な被ばく被害を引き起こします。
5. E: Explosive(爆発物)
- 爆風:強力な爆風で、建物や人を吹き飛ばします。
- 破片:爆弾の破片や周囲のガラスなどが飛び散り、多くの死傷者を出します。
(1) 一次爆傷 (Primary Blast Injury)
爆発の衝撃波(ブラスト波)が直接人体に作用することで発生します。
特徴: 衝撃波は、空気と身体組織の密度の違いを利用して、主に空気やガスを含む臓器を損傷させます。
主な損傷部位: 肺、耳、消化器。
- 肺: 衝撃波が肺を通過することで、肺胞や血管が破裂し、肺の機能が著しく低下します(爆発性肺障害)。これは呼吸困難や血痰を伴うことがあり、最も致命的な一次爆傷です。
- 耳: 鼓膜が破裂し、聴力低下や耳鳴りを引き起こします。
- 消化器: 消化管のガスを含む部分(特に大腸)が損傷し、腹痛や出血、腸管穿孔を引き起こすことがあります。
(2) 二次爆傷 (Secondary Blast Injury)
これは、爆発によって吹き飛ばされた破片や飛来物(ガラス、がれき、爆弾の破片など)が人体に当たることで発生します。
- 特徴: 銃弾やナイフによる外傷と類似しています。
- 主な損傷部位: 全身。
・ 頭部、四肢、胴体: 飛来物による裂傷、刺し傷、骨折、失明など、多岐にわたる外傷を引き起こします。
(3) 三次爆傷 (Tertiary Blast Injury)
これは、爆発の衝撃波によって人体が吹き飛ばされ、硬い物体(壁、地面、車両など)に激突することで発生します。
- 特徴: 交通事故や高所からの転落事故による外傷と類似しています。
- 主な損傷部位: 全身。
・ 頭部、脊椎、骨盤: 頭蓋骨骨折、脳震盪、脊椎損傷、骨盤骨折など、重篤な外傷を引き起こします。
(4) 四次爆傷 (Quaternary Blast Injury)
これは、上記の3つのメカニズム以外の、爆発に関連するあらゆる要因によって引き起こされる外傷や疾患です。
特徴:
- 熱傷: 爆発に伴う熱や火災によるやけど。
- 化学物質: 爆発で飛散した有毒な化学物質による中毒。
- 呼吸器障害: 爆発による粉塵や煙の吸入。
- 心理的外傷: 爆発を目撃したことによるPTSD(心的外傷後ストレス障害)。
爆傷の診断と治療の課題
爆傷の診断と治療は、いくつかの特有の課題を抱えています。
- 見えない傷の存在: 一次爆傷は、外見上は目立った傷がなくても、内部の肺や腸が重篤な損傷を受けていることがあります。
- 複合的な外傷: 複数の種類の爆傷が同時に発生していることが多く、救急隊員や医師は、目に見える外傷だけでなく、隠れた内部損傷を迅速に判断する必要があります。
- 現場の混乱: 爆発現場は、二次爆発のリスク、有毒物質の飛散、多数の負傷者による混乱など、通常の災害よりも危険度が高く、救助活動が困難です。
